『ヒドラ』レッドビーシュリンプ飼育者なら一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
エビ飼育においてプラナリアと並んで嫌われている害虫の名前です。このヒドラが発生している水槽は調子が良くないことが多く、飼育者は対処に悩まされます。
今回はこのヒドラがエビに与える影響を掘り下つつ、具体的な対策を解説していきます。
ヒドラはエビに害があるの?
まず初めにヒドラがエビに害を与えるのか否かについてお伝えします。
ヒドラは稚エビを触手でマヒさせ捕食する可能性があるため害があるといえます。一方で、親エビに関してはヒドラとの体格差もあり直接危害が加わる心配はほぼありません。
ただし、ヒドラによる直接的な害以外にも、「ヒドラが増える環境」が間接的にエビへ悪影響を与えている点を考慮する必要があります。
ヒドラとは?
イソギンチャクのような見た目でガラス面や水草、ソイルなどに付着し、ふわふわと水中を揺れています。大きさは3㎜〜10㎜ほどです。
このふわふわと揺れている触手には毒があり、エビが触れると驚いてピョンと飛び跳ねて逃げることがあります。(人間が触れても何とも感じません。)
ヒドラの食性
ヒドラは肉食性です。動物性プランクトンやミジンコ類、動物性人工餌などを好んで食べます。
エビと同じ甲殻類のケンミジンコについても捕食対象ですのでサイズの似通った産まれたての稚エビはもちろんヒドラのターゲットとなります。
メダカ飼育においても、ヒドラは産まれたての稚魚(針子)を捕食することで有名です。
ヒドラの捕食行動
ヒドラはイソギンチャクのような触手を伸ばし、水流に乗せてゆらゆらと動かしています。
この触手には毒があり、触れると痺れて動けなくなります。比較的体が小さく力が弱いミジンコや稚エビなどは触れると動けなくなりそのまま捕食されてしまいます。
捕食行動としては動けなくなった生体を触手で包み込みゆっくりと吸収していきます。
ヒドラが増える環境
ヒドラが増える環境は動物性の餌がたくさん水槽に存在する環境です。ブラインシュリンプや赤虫などを餌にしているとヒドラが活発になります。
筆者の経験では、立ち上げ1ヶ月〜3ヶ月の白濁りを繰り返す時期にヒドラが増える傾向にありました。
ヒドラが増えた時の水槽内の状況はあまりよろしくなく、白濁りが続いたり、糞や残餌、バクテリアの死骸などからできた汚泥がソイル上につもるような状況で出現、増殖しました。
このことから水槽の立ち上げ初期でまた完全に水が出来上がっていない不安定な時期に増えやすい印象があります。
ヒドラ発生時の対処法
ヒドラ発生時の対処法は3つです。
- 薬剤で駆除する
- 放置する
- リセットする
最も大変ですが効果的な方法はリセットすることです。ただし、リセットの場合は水槽が立ち上がるまで飼育する別水槽が必要となります。
薬剤で対応するにしても放置するにしてもある程度のリスクは覚悟する必要があります。この辺りのリスクを含めて解説していきます。
①薬剤で駆除する
ヒドラの特効薬はプラナリアZEROです。
プラナリアZEROは名前の通りプラナリアを駆除するために作られた製品なのですが、プラナリア以上にヒドラに対して有効です。
◆プラナリアZEROの成分
有効成分は「天然ヤシ科のビンロウ末」です。
ビンロウは東南アジアに生息するヤシ科の植物で檳榔子という実の部分に薬効があります。この檳榔子は寄生虫などの駆虫薬としても利用されていました。
薬理成分はアレコリンという、神経伝達物質様の成分です。(タバコに含まれるニコチンと化学構造が似ています。)
このアレコリンという成分がプラナリアや貝類、ヒドラなどの神経細胞、筋細胞の信号を抑えることで麻痺のような症状に陥らせます。
効果は非常に大きいですがリスクもあります。エビやバクテリア、その他微生物への影響があることを踏まえて使う必要があります。
プラナリアZEROの使用方法
規定の用法容用量
プラナリアZEROは3日間サイクルで使用します。(3日使用した後は休薬期間が必要です。)
水槽水50Lに対し以下の用量を投入します。
- 1日目・2スプーン(1g)を投入
- 2日目・2スプーン(1g)を追加投入
- 3日目・1スプーン(0.5g)を追加投入
複数のエビ専門店でお話しを伺ったところ、規定量入れるとエビにダメージが入るとのことでした。過去筆者自身も規定量を使用したことがありますが、1週間後からポツポツ死が始まりました。
ヒドラ駆除時の用法用量
ヒドラ退治に関しては1度の投入で駆除する事が可能です。
水槽水50Lに対して規定量の半分以下(0.5g未満)の投入で十分効果が現れます。
プラナリアZERO投入方法
プラナリアZEROは消石灰のような細かな粉末で、水に溶けにくいため、直接粉を水槽に投入するとなかなか沈みません。
そのため、あらかじめ飼育水をカップに入れて粉末とよく混ぜてから入れる方法をオススメします。完全には溶けないです。
さらに効果的な方法としては、溶かしたプラナリアZERO水をスポイトでヒドラに直接かける方法もあります。
プラナリアZERO使用のリスク
パッケージにはエビや水草を避難させずプラナリアを駆除できると謳われていますが、全くノーダメージではありません。
プラナリアZEROを投入のリスクは「バクテリアの減少」と「エビへのダメージ」です。
プラナリアZERO投入によりヒドラを駆除するとともに、有益なバクテリアやワムシなどの微生物にも影響を与え、その数を減らしてしまいます。
結果として、有機物の分解→硝化サイクルが崩れてエビにダメージが入ってしまいます。また、エビの餌となる微生物も減るため稚エビの生存率が下がります。
プラナリアZERO投入後はエアレーションを強めでと説明書きがありますが、これはバクテリア減少による有機物分解→硝化サイクルの乱れを回復させるための手段と考えられます。
このような影響はプラナリアZERO投入直後には起こりません。1〜3週間後にポツポツ死という形で現れることがあります。
水質が不安定な水槽で発生しやすいヒドラです。不安定な水槽に薬を入れて水質がさらに不安定になり結果エビにダメージが入るからかもしれません。何れにしてもプラナリアZEROはエビに影響があると考えています。
水槽のエビに多少影響があってもヒドラを駆除したい場合は薬剤の使用を。そうでない場合は薬剤の使用は控えて頂いたほうが良いと考えています。
筆者ならどうするか?と聞かれたら「薬剤は使わず放置して様子見しつつ、無理ならリセット」と答えます。
そもそもヒドラが増える水槽は不安定で稚エビの生存率も低い場合が多いです。そのような環境ではヒドラに捕食されなくても勝手に稚エビが消滅します。
そう考えるとヒドラが居てもいなくても結果は変わらないような気がします。
②放置する
ヒドラは立ち上げ初期や白濁りが発生しているような水質が不安定な場合に増える傾向があります。
筆者の経験上、何もしなくてもヒドラは水質の安定と共に徐々に減り、いつの間にか消えていることも。(逆にいつまで経っても消えない場合もありますが…)
薬剤によるエビへのダメージを考えると放置して水が出来上がるのを待つこともひとつの方法かと思います。
筆者がお世話になっているレッドビー専門店においても水質が安定するまで放置を推奨されていました。
あまりにも増える場合はスポイトで吸い取ったり、網でこそぎ取ると良いとアドバイスいただきました。
ヒドラはちぎったり、潰すと細胞片から再生しますので、取る場合は傷つけないようにしなければなりません。
③リセットする
リセットはヒドラを完全に駆除する最も確実な方法です。
空き水槽がない場合は難しいですが、エビを一時移せる水槽がある場合はリセットをお勧めします。
ヒドラは外部からの混入がない限りは、水槽内に自然発生することはないです。そのほかの水槽に混入する前にリセットしてしまうとスッキリします。
リセットする場合は、ヒドラを再発生させないように完全に駆除しなければなりません。水槽、フィルター、網などはきちんと処理してから使用しましょう。
処理方法は次の2つです。
- 次亜塩素酸を使用した処理
- 熱湯を使用した処理
これらは通常のリセットと同様の処理方法になります。生体を移した後に行いましょう。
◆次亜塩素酸を使用した処理
次亜塩素酸の入った洗剤…つまり「ハイター(塩素系)」です。
ハイターには界面活性剤入りのものと、界面活性剤無しのものがあります。できれば界面活性剤の入っていないハイターを購入してください。
- キッチンハイター→界面活性剤入り
- 衣料用ハイター→界面活性剤なし
ワイドハイターなどの塩素系ではありませんので間違えないようにご注意ください。
水槽に水を張りハイターをキャップ数杯入れて1時間ほどつけおきしておけば、除菌と駆除が同時に可能です。
有益でないバクテリアも含めてリセットできるので、完全に1から水槽環境を作りたい場合はハイターを使ったリセットがオススメです。
ハイターが残っていると水槽の立ち上げに影響がありますので十分に水で洗い流してください。
◆熱湯を使用した処理
ハイターを使いたくないという方には熱湯で処理する方法もあります。
熱湯はヒドラだけでなく、プラナリアをはじめあらゆる害虫を一瞬で駆除できます。
タンパク質が変性を開始する温度が40度のため、それよりもさらに高い温度だとタンパク質の変性が一気に進み(茹でられた状態になり)ます。
水槽が割れないギリギリの温度(50〜60度)の熱湯で処理します。キンキンに冷えた水槽に50度以上のお湯をいきなりかけるとガラスが割れますので徐々に温度を上げていきましょう。
熱湯の場合、害虫は駆除できますが、50〜60度のお湯ではバクテリア(細菌)は完全に殺菌できません。
ほとんどの菌は煮沸すると駆除できますが、温度が低くなればなるほど、滅菌に時間がかかってしまいます。
低温調理を行う場合のように一定温度で長時間維持することは困難と思われます。ですので、熱湯の場合はバクテリアの殺菌効果は期待しない方が良いと思われます。
③その他の対処法
プラナリアZERO、リセット以外にもヒドラ駆除には様々な処理方法が見つかります。
どちらかというと効果が微妙なものが多いです。簡単にいくつか例を挙げます。
- ハニードワーフグラミーに食べてもらう
- ヒドラにスポイトで熱湯をかける
- 餌切りする(特に動物性)
ハニードワーフグラミーに食べてもらう
ハニードワーフグラミーは見た目も動きもかわいい熱帯魚水槽で主役になれるほど人気な魚です。
小さい口でツンツンとヒドラを捕まえて食べます。
筆者はハニードワーフグラミーをたまたま飼育していたため、ヒドラを食べるという話を聞き試したことがあります。
確かに食べます。食べる姿も可愛いです。しかし全て食べ尽くすかというと…。数週間放置していましたが、食べ残しがあります。
ヒドラは1匹でも残っているとそこからどんどん増えますので、駆除効果はあまり期待できません。
スポイトで熱湯をかける
ヒドラにスポイトで熱湯をかける方法も存在します。
熱湯をかけるとヒドラが縮み苦しんでいるのが目で見てわかります。ただ、水槽は25℃前後の水です。その中でヒドラに熱湯をかけてもすぐに温度が下がるので死滅まではなかなかいきません。
この方法もハニードワーフグラミー同様、全てを駆除することはできません。やりすぎると水槽全体の水温や水質に影響があるためお勧めできません。
何よりも浄水器を通した水をお湯にして…という作業が面倒でした。
餌切りする
ヒドラが食べる動物性の餌やプランクトンを減らす目的の対処法です。
しばらく放置して様子見する際などは有効です。
この方法のデメリットはヒドラだけでなくエビの餌、微生物を減らすということです。
数週間程度なら問題ないですが、1ヶ月以上長期にわたるとエビの繁殖にも影響してしまいます。
ヒドラが発生する原因
ヒドラが発生する根本的な原因は水草や生体導入時の混入です。生体や水草を導入しなければ発生しません。
目視で確認してヒドラがいないように見えても、細胞片や生まれたての個体など目に見えないレベルで飼育水、水草、生体に付着して混入してしまいます。
ひとつの水槽でヒドラが発生している場合、その水槽で使ったあらゆる用品を通じて別の水槽にヒドラが混入します。
ヒドラを発生を予防する方法
生体や水草を購入した際に最新の注意を払い水槽内に導入する必要があります。
ヒドラを混入させない生体導入方法
生体を購入した際は袋の中にヒドラや害虫がいるかもと疑ってかかり慎重に対応することが大切です。
具体的なポイントは2つです。
- 袋の水を水槽に入れない
- 足場の水草などを水槽に入れない
袋の水を水槽に入れない
生体導入にあたり温度合わせと水合わせは通常通り実施します。
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水合わせの際、生体と袋の水を容器に移します。
容器に点滴法などでゆっくりと水槽の水を入れてエビを慣らしていきます。容器の中には袋の水と水槽の水が混ざった水が入っています。この水は水槽の中に入れず必ず捨ててください。
生体は網で掬い、網についた水もできる限り水をきって水槽に移すと混入可能性が減ります。
エビの負担を気にされるかと思いますが、数秒程度であれば問題ありません。浮草の上に登ってツマツマしているエビもいますので…。
サテライトを使っての水合わせも混入の危険性がありますのでNGです。
足場の水草を水槽に入れない
足場に使っている水草はヒドラが混入する危険性が非常に高いですので、先に廃棄しておきましょう。
どうしても足場の水草を使用したい場合は『水草その前に』などで事前にトリートメントをしてから水槽に入れましょう。
ヒドラを混入させない水草導入方法
ヒドラは水草にくっつきユラユラと揺れていることの多い生き物です。そのため水草からの混入の可能性が高いと考えています。
水草を水槽に導入するときは必ずトリートメントを行いましょう。一般的なトリートメント方法としては以下の2つです。
- 「水草その前に」による処理
- 「炭酸水」による処理
「水草その前に」による処理
有効成分は水酸化カルシウム(別名:消石灰)です。水に溶けpH12の強アルカリ性を示します。
強アルカリ性下で水性生物、バクテリア類が生存できないことを利用して駆除、殺菌します。
また「水草その前に」は農薬も除去できるのですが、これも強アルカリ性であることを利用しています。
農薬の多くはアルカリ性の成分と混ぜることにより加水分解が進み、農薬としての効果が消失します。
規定の時間内であれば一時的に強アルカリ性になるだけなので、水草への影響は最小限になります。
使用後、水でしっかりと洗い流すことで、処理済みの水草を水槽に入れてもエビへの影響もありません。
水草その前にの処理は、効果も高く、リスクもほとんど無いためオススメの手段です。
「炭酸水」による処理
コンビニなどで販売されている普通の炭酸水です。
炭酸水は水に二酸化炭素が溶けている状態ですので、そこにヒドラなどの害虫を入れると二酸化炭素中毒および酸素不足の症状が現れます。
そのため、数十分炭酸水につけておくことで害虫をある程度駆除することができます。た
だし、つけ置き時間が長くなればなるほど炭酸も抜けていき生体がギリギリ生き残る場合もあります。
完全に害虫を駆除のしたい場合は炭酸水を入れ替えながら数時間以上つけておく必要があります。
その場合問題となるのは水草へのダメージです。水草は光合成で二酸化炭素を消費しますが、呼吸もしています。低酸素の状態が続くとダメージを負ってしまいます。
絶対に水槽に害虫を入れたくない場合、害虫駆除効果と水草へのダメージを考えると、炭酸水トリートメントはあまりお勧めできません。
まとめ
- ヒドラは稚エビを捕食する可能性はある
- ヒドラによる影響よりも不安定な水質の方が稚エビの生存率を下げる
- ヒドラ発生時の対処法は①薬剤による駆除②放置③リセットの3つがある
- 筆者のおすすめは放置またはリセット
- ヒドラは生体水草からの混入する(水槽内で自然に湧くことはない)
- ヒドラ混入対策①生体導入時は袋の水や足場の水草を水槽内に入れないこと
- ヒドラ混入対策②水草導入前にトリートメントをすること
今回はヒドラ発生時の対処について記事をまとめてみました。
水槽内でヒドラを見つけた時の衝撃は今でも忘れることができません。
筆者はこの記事に記載した方法で対処と予防をすることで全水槽(30本)から完全に害虫を排除することができました。
予防を徹底することで害虫たちを見なくて済みますので、有名店だから…、目視で害虫が居ないから…、こんな考えで油断しないように気を引き締めて管理しましょう。
それでは楽しいシュリンプライフをお送りください♪